垂水わらびの走火入魔

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殺破狼の、元和帝についての独自研究。

「殺破狼」の元凶の一人、元和帝という人について。大いにネタバレしているので、要注意。

番外編まで含めた、最後の最後まで読んだ人向けです。

地雷だったら地雷を抱きしめて吹っ飛びやがれ。

スクショでは回さず、リンクで回してね。

元和帝の立場の弱さ

この人は、良く言えば温和・柔和・優雅で戦争を好まない人物です。悪く言えば優柔不断で疑心暗鬼に陥りがちな人物です。

これは、性格的な問題もあるのだが、立場的な問題もあると考えました。

この人は武帝から見ると傍流にあたる人で、本来諸王の一人でしかなかった人です。おそらく、武帝の兄弟や従弟の孫にあたる人で、世代としては顧昀と同じ(年齢は親子相当)。

武帝の実子が一人もいなければ問題なかったかもしれないけれど、武帝の実子が一人生き残っていて、その長公主には、玄鉄虎符が与えられています。

おまけにその夫は安定侯顧慎で、玄鉄三部を率います。

政治は李豊、軍は顧昀と、政と軍が分離しているのが問題だという話が(長庚の少年時代に)江南に下る頃から出始めますが、それは元和帝と顧慎の時代にも変わりません。

むしろ、元和帝と顧慎の時代の方が不穏ではありませんか?

事実、李豊はクーデターに複数回遭ったり、都を包囲されたり気の毒です。その最後も。

ただしこの世界は物理がモノを言う世界なので、方欽一派も了痴も軍の精鋭部隊を掌握していないので、虚を衝こうとしてもう、すぐに長庚にひっくり返されます。

初めの包囲戦のときは皆長庚の背後に顧昀を見ていることでしょう。それ以降は包囲戦のことを皆知っていて特に北部大隊は長庚に心情的に親しい存在になります。

物理がモノを言う世界なので、軍を完全に掌握する人がクーデターを起こそうとすると、物理で政権をひっくり返すことができます。ただし、その顧慎にも顧昀にもそのつもりがないのですが。

元和帝から見た、顧慎

元和帝が即位する大義名分は、武帝に後継に指名されたというだけのようです。なので、別の王が虚をついて即位しようとしたところを、方家の親父さんらが長公主と連絡を取り、長公主の玄鉄虎符を使ってそれを阻止した模様です。

元和帝は武帝と血縁関係も薄いので、それゆえに長公主夫妻やその他名門の後ろ盾が必要だった人です。おそらく名門の中でも最も大きな部分が長公主夫妻だったのでしょう。

元和帝から見ると長公主夫妻は恩人です。しかし、後ろ盾になることができるということは、最も警戒せねばならない相手ということでもあります。首をすげ替えることができるという意味ですから。

元和帝からは、顧慎の牌は三つあるように見えると考えますがいかがです?

一番初めが玄鉄三部(玄鉄大隊)という顧慎本人の物理的な実力。

もう一つは妻の長公主の持つ玄鉄虎符という権威。

三つ目が長公主は武帝の実子であり、その子の顧昀は武帝の血を引く男児である、という血統。

この三つを順に切っていくとすると、どうなることでしょう!!

玄鉄虎符を使って各地の軍を動かし、顧慎本人が玄鉄大隊を率いれば武力による現状変更ができます。顧慎本人が即位しなくても、武帝の娘たる長公主、もしくは、母系ではあるが武帝の孫の顧昀が即位する手があります。女帝の即位を許す世界かはわからないです。ですが、顧昀なら血統も折り紙つきですから。(顧昀が即位すれば、国姓が李から顧に変わります。それに伴い国名も変わるでしょう。都は北京だと踏んでいるし、燕あたりでしょうか。)

これは、顧慎にそのつもりがなくても、元和帝からどう見えるかという話です。

顧慎が十八部落を制圧して、凱旋した段階でどう元和帝はどう感じたでしょうか。

恐怖じゃないですか?

顧慎はこのまま太平の世に向かわせて引退する気満々なのに、元和帝は大変恐ろしいのですよ。顧慎は国境を軍が押さえるから外から敵がやってこないと思っていますが、元和帝は軍の解体を模索し始めます。これは、動かしようなない、権威、血統とは違い、物理的な兵力は削減できますから。兵力を削減した暁には、武力に裏付けられた権威も下げられます。そこへ貴妃が現れて籠絡され…玄鉄事変を黙認してしまうわけです。

玄鉄事変

もう一人、貴妃から見れば、安定候夫妻は十八部落の仇敵です。その二人に最も大きなダメージを与えることができるポイントは、最も弱い顧昀です。どうやら長公主は子どもをもう産めそうにないでしょう?

元和帝から見れば、顧昀こそが父母から軍と血を受け継ぎ、最終的に自分に変わって即位しうる脅威(しかも若いので時間という有利さもある)ですよ。

その元和帝の弱さを突いたのが、玄鉄事変です。玄鉄事変で、顧昀が死ぬ必要は多分なく、目が見えず耳が聞こえない状態で十分だったのではないでしょうか。

姉妹の逃走のきっかけは玄鉄事変ではなく、おそらく胡格尔の妊娠です。

貴妃は自分の子と胡格尔の子で、尔骨を作る気で逃走したのだと思います。後宮では尔骨は難しいから。

顧慎は十八部落はまたどこかの段階でまた蜂起すると踏んで、玄鉄事変の被害者でもある顧昀を鍛えることで、結果的に将来の梁国を救うことになります。

そして、頑丈な人だったらしい顧慎はなぜか早死にしています。戦死ではなかったようなので…盛った?

顧昀

さて、元和帝に戻ります。

顧慎・長公主と相次いで亡くなり、皇貴妃の魅惑も消えてしまうと、残ったのは病弱な少年の顧昀一人です。

武帝の血を引くこの少年を路頭に迷わせるのは、その両親が恩人だったために仁義からは許されません(と本文に書いてある)。そのために後宮に引き取ります。ところが顧昀は毒の影響で病弱だし、本人には実力がない(ように見える)し、少年は軍で育ったとはいえ、軍を掌握しているわけでもありません。

権威も血統だけなので、両親がいない幼児は元和帝から見ると大した脅威ではない。残るのは罪悪感です。

なので、ただただ可愛がるわけです。

しかし、子どもはすぐに成長します。大人はすぐに老人になります。元和帝はそれを知っていますし、まだ玄鉄大隊の旧部が生きています。警戒感が残ったまま、そんなこんなで、気がつけばあの子は十七歳で西域の反乱を平定します。

警戒感があるので、解毒剤も素直に渡せません。

だけど、罪悪感もあるし、可愛がったんですよ、この人は。同時に情で顧昀を自分に結びつけることは計算していると思います。皇子たちと顧昀を一緒に育てたのは、プランAの太子(李豊)と情で結びつくかは別としても、第三皇子と顧昀が仲が良いことを見抜いて、第三皇子と顧昀を情で結びつかせて第三皇子の即位がプランBだったのでしょう、

もしも元和帝がどちらかに振り切ることができる人ならば、臨終の長公主から顧昀の身の保証と交換条件に玄鉄虎符を取り上げたことでしょう。そして後宮で皇子たちと一緒に養育していた顧昀を何年か後に殺して、表面上は、哀れで美しい子が病気で死んでしまいましたということにしてしまうこともできたんです。

だって、この人の後宮だもの。

しかし、優柔不断な上に罪悪感があるので、長公主からも顧昀からも玄鉄虎符を取り上げることもなかったようで、親切に可愛がって成長させてしまいます。そのおかげで、将来の梁を救うことができるけれど、それは結果論です。

第三皇子が犠牲になる事件は、あれはおそらく、顧昀が死んでも優柔不断な元和帝は仕方がないと処罰しないのではないかと宦官たち(多分バックに了痴がいる)は踏んだのではないでしょうか。

政と軍の分離については、元和帝と十七歳以降の顧昀の関係は擬似的な父と子の情が結びつけます。やはり、元和帝は警戒は続けていますが。

その元和帝は自分が死ぬところにきて、ふと思うわけです。プランBの第三皇子は死んだ。次はプランAの李豊と顧昀の時代はどうなるだろうか、と。第二皇子がプランCにならなくても、この顧昀は若くして軍を掌握する実力がある上に母から玄鉄虎符を受け継ぐ。そもそもが顧慎以上の脅威でしたし、李豊よりも若い。ともに育ったとは言え、顧昀はあまり李豊を好まないようだ…。(とはいえ第二皇子も好まないのでプランCにはできないと踏んで)それで最後に、李豊には顧昀に気をつけろ、と釘を刺してしまいます。

李豊は馬鹿ではありません、太子時代から李豊が顧昀に友情を覚えているけれど、内心顧昀の脅威性に気づいています。友情の矢印が片側通行なのもわかっているかも。父に釘を刺されれば、のちに天牢に入れることになっちゃう。即位後に先帝時代の玄鉄事変の真相が明らかになる頃には、先帝が誰の何を恐れたのかはっきりと理解しているでしょうから。

李豊についての独自研究はまた別にしておいて、臨終の元和帝に戻ります。

元和帝は警戒する反面、顧昀に罪悪感もあるので、解毒剤をそれとなく渡すわけです。これが解毒剤だと言えないのが元和帝という人です。

顧昀という人の本性が情の深いと踏んだのか、長庚を預けてもう一つの擬似父子の情で縛ろうとします。これが、元和帝のプランC。

元和帝のプランC

顧昀は実に情に厚い人です。

顧昀が玄鉄事変の真相を知ったとき、長庚の母親が自分の仇で長庚の父親はそれを黙認したと知ることになるので、顧昀が長庚の命を狙う可能性がありました。ここで仇を討つという思考に入る人も少なくないでしょうに。

玄鉄事変がおそらく両親の死(心労?)を早めていますし、あの事件で自分を守ろうと何人もの人が亡くなったり、冤罪で左遷されたりしています。

ただし、顧昀にちっともその葛藤がないのは、長庚への義父としての情が深いからで、何もかも支離滅裂な元和帝がやったことで唯一まともに意図が機能したことではないでしょうか。

元和帝は、長庚を育った雁回にちなんで「雁北郡王」に封じます。「雁」は南北を往来する渡り鳥です。帰ってきた人とも読めますが、ここにとどまるべきではない(=帝位につくべきではない)人、とも読めないでしょうか。これは、兄二人にこの人は強力な後ろ盾を持つが脅威ではないと示して、保護しようという意図ではないかと思いました。

というのも、父系社会だからこそ母親が誰か、その母親の父親が誰かが重要です。後宮ものドラマの見すぎでしょうか(三本くらいしか見てないけど!)、皇帝の息子たちの中では母の位も重要です。長庚の生母は、私の解釈では生前は貴妃、没後皇貴妃に封じられた人です。皇貴妃は置かれる王朝と置かれない王朝がありますが、例えば置かれた清朝では、皇后に次ぐ地位が皇貴妃です。つまり、生母が皇后の太子・李豊に次いで長庚が皇子の序列の中では高いのではないかと思うのです。だからこそ、郡王に封じて皇位を狙う人物ではないと兄二人(多分特に第二皇子)に教えて、保護しようとしたと考えます。

何もかもが相反しているように見えるのが、それがこの元和帝という人物です。

おそらく、元和帝は顧昀が即位せず、自分の生き残った子ども三人のうちの誰かが帝位に就き維持するなら誰でもよいのではないかと考えていたのではないかなあと、私は考えました。顧昀が、李豊も第二皇子も帝位にふさわしくないと考えて、情から長庚を即位させて後ろ盾になるならそれでも良いと。つまり、長庚の即位がプランC。

顧昀が即位しないことがこの人にとって最も大切なことだと考えてみてください。死の間際に、第一の布石として李豊に顧昀を警戒させ、李豊がうまくいかないときに備えた第二の布石として長庚を兄からも顧昀からも保護しようとしたと捉えられば、一貫しています。

ただ、まさか、あの長庚が呪われた狂犬で、あの子ども時代にすでに顧昀に対して邪な感情を抱いているとは思いもよらなかったことでしょう。

本当にあの狂犬ちゃんったら、狂犬なんだから。

ところで皆さん、琅琊榜はご覧になりました?

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