よしながふみ「大奥」
最近、我ながら漫画をよく読んでるねえと思います。
今度は、よしながふみ「大奥」。
今更ながら、です。ドラマ化(何度目かの)に連動しているのでしょうか。完結しているんでしょうね。Lineまんがの猛プッシュで読むようになりました。
https://manga.line.me/product/periodic?id=S113760
ご存じでしょうけれど、男性が数少なくなったと言う設定で、女性の将軍吉宗と男性の仕える大奥から始まります。
すごい想像力だ。読み進めるごとに、圧倒されます。
本作のすごさと言うものは、性別を反転させることによって奇妙さを強調することですね。
例えばの話、万世一系なんて吉宗の前で言ってみれば、「父系だと誰の種かがわからぬが、母系なら誰が生んだかはっきりするぞ」と真面目に反論するでしょう。
そして、「祖先の威光にすがった者だけならば、能臣が出てこない」という阿部正弘なら「男ばかりが政治を担当すれば、硬直化する」とも言うでしょう。
「男のくせに表に出てこようとするなどと生意気な」と、モンスター徳川治斉なら言いそうですし、それに対して、阿部正弘なら「女ばかりが政治を担当すれば、硬直化しますでしょ?」くらい言い返しそうだ。
性別を反対にしてこそ見える、この奇妙さよ…。
機械が出てくるわけではないけれど、真っ当にSFなんだなあと思いました。
一巻目はこの世界の「大奥」とはこんな世界ですよ、と教える役割。
扉絵は水野くんだな、これは。
二巻目に入ったのですが、ここはなぜ、なぜ家光時代に鎖国をしたのか、という理由がこの風土病らしい病気です。男が少なければ攻め込みやすいから。戦国時代を生き抜いた春日局が主導したという設定です。実際に行われたことと、その理由のリンクのさせ方が見事で。
確かに家光ってかなり年を取ってからようやく子どもが何人もできるわけで、15くらいで作った子どもと入れ替わったという設定もありえそうな気がしてきます。
扉絵は「お万」。そうです。家光が見初めて春日局が還俗させたというお万の方が男性。お玉の方になるんだなというキャラも男性です。
三巻目に入ると、最愛の人、有功(お万)との子を家光が懐妊できず…という地獄。
扉絵は家光(千恵)。
四巻目は、家光の死と、家綱時代に大奥を去る有功、そして綱吉時代に。桂昌院(お玉)は都からやってきた右衛門佐に有功の面影を見るのだが…。
扉絵は家綱の「御内証の方」の倉持くんかな?
五巻目は綱吉。綱吉には唯一松姫がいたが死んでしまう。
桂昌院は、かつての殺生が綱吉が妊娠しない理由ではないかと思い込み、綱吉は生類憐みの令を出す。
扉絵は綱吉。綱吉は生類憐みの令のバカバカしさを知っていたが、松姫亡き今、綱吉に家族は桂昌院しかいない。脳みその出来が悪いわけではなく、耄碌した父親の機嫌だけを心配していたという地獄…。
6巻は綱吉の死。誰からも独占したいと思われた綱吉。その最後は、なんと。というか、柳沢吉保…。柳沢吉保も右衛門佐も去り、やってくるのは家宣たち。家宣は側室の左京との間に姫を生む。しかし左京が愛していたのは間部詮房で…。
扉絵は右衛門佐。この人も綱吉に一目惚れしてしまった。
7巻は家継時代。幼女家継の背後には父の月光院(左京)と間部詮房がいる。体の弱い家継の、次の将軍を誰にするのか。そして起きる、純情男江島と脇の甘い月光院。江島生島事件。
扉絵は生島新五郎でも間部詮房でもないですね、吉宗だ。ここで時系列は巻1に戻る。
巻8は、吉宗から家重へ。家重のコンプレックス。ただ、御台所の宮とは良い関係だったし、跡継ぎもいるのだが…。ききんがくれば打ちこわしが起きる。それもみんな女の人というのも面白い。
扉絵は長崎の「吾作」。
巻9は吉宗の密命を受けた田沼意次。家治時代です。確かにこの時代に平賀源内がいたり、杉田玄白らの「解体新書」だったり。それをこう持ってくるかあ…。とびっくりしましたねえ。
扉絵は、男装して歩く「女」。平賀源内です。源内さん…ビアンというか、中身が男なのかな。
10巻目は赤面疱瘡について研究を進める面々。
左から田沼意次、伊兵衛、青沼、黒木、源内、僖助みたいな。扉絵に出てくると、結構悲劇よね…。
田沼意次の失脚、青沼の刑死、源内の病死。そして青沼のおかげで赤面疱瘡から生還した家斉が将軍に。
扉絵は家斉夫妻。
12巻は家斉が密かに黒木に命じて赤面疱瘡の研究を再開させる。ちょうど、ジェンナーの牛痘法について知られるようになり、黒木は源内の先見性を思い知る。
扉絵は黒木親子かな。結構悲劇に見舞われがちな扉絵の人たちだけど、黒木の最期はそうでもなかった。とはいえ、疱瘡予防は結構大変だったようで。
13巻は、その次、家慶時代。
扉絵は蔭間の瀧山と阿部正弘。そういえば、柳沢吉保、間部詮房、田沼意次と、失脚していく人たちの苦労のようなものを描いてきて、ここにきて日米和親条約の阿部正弘。
14巻は家定時代。家定の正室は二人連続して毒殺され、三人目に阿部正弘が薩摩に依頼してやってきた「丈夫なご正室」が分家筋の島津胤篤。朗らかな胤篤に家定はほだされていくというところで、物語のスピードが再度ゆっくりになってきた。
ということで、扉絵は反発する家定、朗らかな胤篤。
15巻は、阿部正弘の早すぎる死。慶喜を次の将軍にと望む薩摩の意向を受けた胤篤だが、家定に子を産んでほしいと思うようになる。家定は後継者に紀州の福子を選ぶが、家定も妊娠した。
井伊直弼の安政の大獄と、桜田門外の変。この世界ならこうなるなあという感じで、ナチュラルに入ってくる。これまで、将軍の死が描かれて来たけれど、家定の場合は胤篤側から描くだけで、はっきりとは描かれない。そして福子が家茂として将軍になる。
扉絵は家定と胤篤夫妻。
16巻は、能のある臣下がいない世界。かつて男家光には春日局以下の家臣団がいて、女将軍たちにも有能もしくは忠誠を誓う臣下が表の世界にいた。女家光は父家光の家臣団をうまく使い、大奥にはお万がいた。家綱は母の家臣団がいてしばらくはお万が後見をしていた。綱吉には柳沢吉保、そして父の桂昌院。家宣・家継には表に間部詮房。大奥には天英院と月光院。この二人は対立しても将軍を裏切ったわけではない。吉宗には表に加納久通。大奥はうまくあやつった。家重には表に田沼意次。大奥は吉宗が抑えた。家治には引き続き表には田沼意次。大奥は御台所が研究に理解を示していた。二人の男将軍の後、家定には阿部正弘。大奥には瀧山と御台所の胤篤がいる。
しかし家茂は有能だが、表には味方がいない。政治は再び男のものになったが、落飾を許されなかった胤篤は薩摩に帰ろうとせず天璋院として大奥にいて、そのため表には出られない。阿部正弘が(間接的に)大抜擢した勝麟太郎がいる程度だ。
言ってみれば、家光時代にはまだ戦国で頭角を現した人物やその子らが残っている。しかし家茂の時代には、人材登用が硬直化している。家定時代の阿部正弘のセリフのように、能ある者を抜擢せねば、とあるように、硬直化した身分制度が能臣を育てられないのだと思った。
扉絵は大変気持ちが悪いのだが、和宮。和宮入れ替わり説をこう使うんですね。
17巻は、家茂の三度に渡る上洛。そしてその早すぎる死。
扉絵は家茂だな。
18巻
扉絵は、瀧山とこれは仲野かな。
天璋院と和宮、そして瀧山は江戸が戦乱に巻き込まれることを回避しようと、勝麟太郎と策を練る。そして、やってくる西郷隆盛は「女将軍」によって統治されたことを恥じている。
扉絵は切れているけれど、Amazonを見ると、中にカラーグラビアがあって、右から家光、綱吉、吉宗、家定、そして家茂。女将軍はもう二人、吉宗の前にいるし、家治はそれなりに重大な役割だったと思うんだけど。
気づいたこと
読みながら気づいたのが、私が漫画をあまり読んでこなかった理由です。
絵がノイズになる。
つまり、作者の美意識、本作の場合なら言い換えれば「作者の好みの美男子」と言えると思うのですが、それが私の好みとずれた場合にノイズになってしまうんですね。
いくらストーリーが面白くても、絵柄が私の好みではなかったらそれがノイズになるということなんだなと気づきました。
実際に、実写ドラマ、実写映画もいくら作品の評判が良くても好みではない方だと見ないんですよ。細い目よりもくりくりの目が好きです。
頑張ってのんびり読もう。
もう一つ気づいたことがあります。
もちろん、「大奥」はスマホが出てくる前の時代の作品で紙で読むのが前提です。それをスマホで読むと、横スワイプです。
韓国のウェブトゥーンがスマホで読みやすいのは、縦スワイプだからなんだなあと思いました。もちろんアプリの側で縦スワイプができるようになってますが、なんか違う感じです。そういう風に描かれてないからでしょう。
画面が紙よりも小さいスマホで読むから、文字がすごく小さく感じるのはどうしようもないことです。
次は、カラーです。
紙に印刷するのが前提だからかカラーリングがされていない漫画と、紙に印刷しないのが前提でカラーリングもしやすいウェブトゥーンの方が読みやすいと思いました。
それが時代なんだなあという、気づきです。
でも、面白かった。