垂水わらびの走火入魔

このサイトは全ページにAmazonアソシエイトの広告があります。Amazonのアソシエイトとして、 垂水わらびは適格販売により収入を得ています。

殺破狼における、武侠要素についての独自研究

殺破狼の面白さは、

  1. BL
  2. スチームパンク
  3. 武侠
  4. 中華架空戦史

の見事な融合なのだけど、武侠について。

金庸の気配があると思うのですが、どうでしょう?

もちろん、ここからは盛大にネタバレしてます。

解釈違いもありうる。異論は認めるが受け付けぬ。地雷だったら抱きしめて吹き飛びな!といういつもの独自研究です。

✂︎✂︎✂︎✂︎✂︎

臨淵閣という、集団について

長庚は臨淵閣の木牌を(ほぼ不正に)入手することによって、臨淵閣の人々の無条件の協力を得ます。木牌を得るという決意するところが、長庚の李豊への殺意が生まれたところだと私は考えています。

隆安帝についての独自研究、のはずが、狂犬の殺意について - 垂水わらびの走火入魔

狂犬ちゃんは、本当に、自分のことを子犬だと思い込んでるだけでなく、行動もやばい。

狂犬長庚のヤバさはさておき、この臨淵閣こそ、武侠要素だと思います。

臨淵閣

顧昀や李豊から見ると、臨淵閣は普段は静かに潜ってるのに、乱世になると表に出てくる存在です。

これは、二人とも「公(おおやけ)」の人であり「官」に属する人だからそういう認識になります。

しかし、この世界、20年もすればメインプレイヤーがほぼ全員入れ替わってるような寿命でしょうから。生きている人間の集団なのだから、いきなり何百年かに一度出てこいと言われても出てこれるわけがありません。

普段は、この人たちは、各職域などをまたいだ緩やかな協力関係にある人たちです。

端的に出てくるのが、71で木牌を誰に預けるかについて語るところです。杜財神が西洋へ行って財産を作ったときに、臨淵閣が多少は手助けしたことが伺えます。

助け合い、続くからこそ、臨淵閣は何百年に一度出てきて力を発揮することができます。

江湖

臨淵閣の属する「江湖」は「民」の世界。

現代用語ではヤーさんの世界を指すので、あんまり口にするような単語ではないと思います。

わらびちゃんの「江湖」イメージとして出てくるのは、やはり武侠小説の源流の一つであろう「水滸伝」の梁山泊の百八人です。

 

 

江湖についての面白い論文を見つけたので、こちらもどうぞ。やはり、水滸伝が出てくる。

https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900066670/jinshaken21-22.pdf

上の論文ではベネディクト・アンダーソンの「想像の共同体」が出てくるけど、これもまた古典。興味がある人は読んでみるといいよ。

臨淵閣の構成

私の江湖のイメージは水滸伝だし、金庸武侠小説で描く世界も「官」の世界はあまりありません。

例外として、「鹿鼎記」がありますが、あれもまたひょんなことから宦官(ではないんだけど)になった男が活躍する話ですが、天地会とも関わりがあるし…ということで。

ところが、臨淵閣は半民・半官といったところでしょうか。

  1. 護国寺
  2. 商人
  3. 医者
  4. 将軍
  5. 霊枢院

の5つで構成されています。そのうち、護国寺は梁で手厚く保護された仏教寺院で、おそらく官の寺です。決して、「笑傲江湖」の少林寺のような寺ではありません。

将軍は官ですし、霊枢院もまた官吏です。

そこが、本作のオリジナリティであり、現実的なところかなと思いました。

特に、将軍。

将軍は、乱世には人を集めねばなりません。徴兵するのでしょうけれど、近代の戦争とは異なり、スチームパンク世界であっても、物理が物を言う世界ですから、荒くれ者を連れてくるのが手っ取り早そうです。

戦争が終われば、その荒くれ者たちがみな農民になるかというと、そうでもないでしょう。

匪賊化させないためには、受け皿が必要で、その受け皿の一つが、武侠もので割に出てくる鏢局。運送屋です。強盗が出てくるので、運送屋は剛の者設定が多いですよね。

現実的だなって。

キャラクターについて

そして、特に陳姑娘・曹娘子が武侠小説に出てきそうなキャラクターだと思います。

陳姑娘

みんながお世話になる陳姑娘ですが、名医設定のキャラクターは武侠モノには結構出てきます。それはみんな怪我するからなんだけど。

金庸の世界でいちばんの名医ならば、おそらく南帝こと、一燈大師(段智興)(「射鵰英雄伝」「神鵰侠侶」)。

鍼灸の「鍼」を行うので「鍼」と訳したけれど、「針」を武器にもします。

針を武器にすると言えば、東方不敗の繡花針(「笑傲江湖」)、李莫愁(「神鵰侠侶」)の冰魄銀針、小龍女の玉蜂針<を思い出します。

巫女の神殿のところで布を繰り出しますが、布と言えば小龍女の金鈴索。小龍女のものは白いリボン状のものの先に金の鈴が付いてます。

軽々とした身のこなし方は、典型的な軽身功。これは、了然和尚の軽い身のこなしもそうです。

走り方の説明が「神鵰侠侶」にあるのだけど、それを最も忠実に映像化したのは、「慶余年」の王啓年の走るところだと思います。陳姑娘も了然も多分あんな走り方をすると思います。

多分この走り方の源流は、「水滸伝」の戴宗だと思う(あの人は道士でお札を使います)。

曹春花

曹ちゃんもまた、武侠モノに出てきそうな人です。

やはり身のこなしも軽いのだけど、武侠モノに出てくるならきっと、役者さん。

金庸の作品に役者さんが出てきた記憶はないのですが。

明代に「一枝梅」という義賊もののお話があって(元の話は読んでないですが)、これを元にドラマにしたものがあります。

これが今はもう簡単に見られるものではないです。面白いんだけどな。

馬天宇が演じた「賀小梅」という京劇役者にして変装の名人というキャラがあるのですが、曹ちゃんはいつものこのときの馬天宇を連想していました。

製作会社が、YouTubeに出しています。もちろん、日本語字幕はありませんが。

 

 

ところで皆さん、琅琊榜はご覧になりました?

 アマプラでも見られるので是非!